EduHubのコラムでは、デジタル教科書を使った授業の様子をレポートしています。その理由は、デジタルであろうと紙であろうと、教科書が学校において大きな役割を果たしていると考えるからです。
GIGAスクール構想によって一人1台の情報端末を子どもたちが使える環境になり、デジタル教科書を学校での学びに活用できるようになりました。デジタル教科書は、紙の教科書では実現できなかった多くのことができるようになっています。そうした新しい機能が、子どもたちの学びをどう変えるのか、先生方の教え方をどう変えるのか、授業をどう変えられるのか、そうしたことを多くの人に伝えたいと思っています。
これからますます活用が進んでいくデジタル教科書が子どもたちの学びをどう変えていくかを見るときに、デジタル教科書と紙の教科書で、どんなところが違うのかを知っていることは大きな意義があると思いますので、一度まとめてみたいと思います。
一般社団法人 教科書協会が刊行している『教科書発行の現状と課題』の2023年度版12ページに、紙とデジタルの併用の様子が図で表されています。
デジタル教科書と紙の教科書って違うの?
児童生徒が使う学習者用デジタル教科書を、「紙の教科書がそのままデータになっていてPDFみたいなものじゃないの?」と言う人もいますが、それは一昔前のイメージです。
学習者用デジタル教科書の内容は「紙の教科書と同一」でないといけないという縛りがあり、以前は教科書にはない動画や朗読音声などのコンテンツを入れることはできませんでした。
例えば、中学校英語の学習者用デジタル教科書では、これまで読み上げ音声について機械音声は可とされていましたが、ネイティブによる朗読音声は「教科書にはない追加のコンテンツ」となるため、学習者用デジタル教科書には入れることができませんでした。
しかし、英語の学習者用デジタル教科書におけるネイティブによる朗読音声は、学習者一人ひとりが何度でも自分の習熟度に合わせて聴いて練習することができるようになる、英語の学び方を変えるコンテンツです。そのため、教科書各社はネイティブによる朗読音声を「教科書+教材一体型」という形で提供をしていました。つまり、ネイティブによる朗読音声は、「教科書+教材一体型」の「教材」の方に入っていた、ということです。
しかし、国が制度として認めているのは「学習者用デジタル教科書」のみなので、2024年度からの本格的な導入の対象も「学習者用デジタル教科書」となります。
そこで、文部科学省は一部の教科については「教科書と同一」という範囲の解釈を広げ、英語については朗読音声もデジタル教科書に含めることを許容しました。
2024年5月現在、この特例が認められているのは英語と、英語の次に本格導入の対象となると言われている算数の学習者用デジタル教科書です。
この特例措置により、算数の学習者用デジタル教科書では、練習問題をデジタルドリル化したり、図形を動かして児童生徒の理解を助けるアニメーション教材などを収録することができるようになりました。こうした教材もまた、学習者一人ひとりが自分の習熟度に合わせて何度も見返すことができるようになる、学び方を変えるコンテンツになるだろうと思います。
学習者用デジタル教科書のこうしたコンテンツは、先生方がする授業も変えるだろうし、同時に学習者である子どもたちの学びの方法も変えていくだろうと思います。
デジタル教科書だからこそできる外部教材との連携
もうひとつ、学習者用デジタル教科書だからこそできることに、外部教材とのリンクもあります。いまの紙の教科書にはQRコードが掲載されていて、児童生徒は自分の情報端末でQRコードを読み込んで、デジタル教材を開くことができるようになっています。教科書会社によっては、学習者用デジタル教科書の紙面上にもコンテンツボタンがあり、紙の教科書と同様にデジタル教材を開くことができるようになっています。
紙の教科書もデジタル教科書も、外部の教材やWebサイトにリンクを貼ることができるので、例えば気象庁などのサイトにリンクを貼っておくことで、リアルタイムで気象データを見ることができるようになりました。こうしたリアルタイムに使える教材も、授業と学びを変えていくことでしょう。
「デジタル教科書の今後の在り方等に関する検討会議(第一次報告)」のなかには、「デジタル教材との連携の在り方」という項目もあり、以下のようなことが書かれています。
- 学習指導要領の内容で適切に構成されたデジタル教科書と、教科書の内容をより深めたり広げたりするためのデジタル教材を連携させて活用することは、児童生徒の学びの充実に資すると考えられる。なお、デジタル教材は、学校教育法第 34 条第4項に規定する教材(補助教材)であるため、他の補助教材と同様に、「学校における補助教材の適切な取扱いについて」(平成 27 年3月4日付け 26 文科初第 1257 号文部科学省初等中等教育局長通知)も踏まえた適正な取扱いが求められ、多種多様な教材の中から各学校において児童生徒の実態等に応じ使用することが適当である。
- デジタル教科書を利用する大きなメリットの一つが、デジタル教科書を起点としつつ広くデジタル教材等との連携を行い、学びの充実を図るための様々な授業の展開が可能になることである。教材は教科書に比べて相対的に自由度が高く、これまでも教科書に準拠した質の高い教材が発行されてきている。また、デジタル化されることで多様な教材の迅速な提供も期待される。今後、従来の教材のノウハウを生かした教材や、デジタルの良さを生かした新しい教材など、多様なデジタル教材が、広くかつ容易にデジタル教科書と連携した形で活用されるようになることが期待される。
- これまでのデジタル教科書とデジタル教材との連携の現状としては、教科書発行者がデジタル教材部分を製作し、デジタル教科書と一体的に販売をしているケースがほとんどであるが、今後はより多様な製作主体によるデジタル教材との連携が進むことが考えられる。このため、デジタル教科書とデジタル教材の連携には、学習指導要領コード等の付帯情報(メタデータ)の付与等によるきめ細かな連携の方式や、児童生徒ごとの様々な学習ツールの窓口となるシステム(学習 e ポータル)を含め、連携が望まれるシステム間の共通規格の整備が必要になると考えられる。先般、学習指導要領のコード化が実現したところであり、今後、学習指導要領、教科書、教材という一連の繋がりを分かりやすくするため、相互の連携を進めることが必要である。
まとめ
EduHubのコラムでは、学習者用デジタル教科書を活用した授業レポートを公開しています。紙の教科書とデジタル教科書と、それぞれのメリットがわかるように、できるだけいろいろな教科・いろいろな単元で使っている授業の様子をレポートで伝えていきたいと思います。
フューチャーインスティテュート株式会社 / 教育ICTリサーチ 為田裕行