東北学院大学 教授 稲垣忠先生 インタビュー No.1 (2024年6月27日)

 2024年6月27日オンラインにて、東北学院大学文学部教授 稲垣忠 先生にインタビューさせていただきました。

 

稲垣 忠(いながき ただし)
東北学院大学文学部 教授・学長特別補佐 専門は、情報教育、教育工学。日本教育工学協会常任理事、日本教育工学会・日本教育メディア学会理事等を務める。小~高のさまざまな学校現場にかかわりながら、情報教育、教育の情報化、インストラクショナル・デザインなどを切り口に研究を展開。

実証研究から見えたデジタル教科書のメリット

 学習者用デジタル教科書の効果をはかる文部科学省の令和5年度の実証研究の報告書が公開されています。稲垣先生と一緒に、大規模アンケート調査等の実施による学習者用デジタル教科書の効果・影響等の把握・分析等に関する実証研究事業 成果報告書の「使用場面別のデジタル教科書と紙教科書との比較」の分析(p.42, 43)に注目しました。

稲垣先生

 個別学習を見ると、圧倒的にデジタル教科書のほうが良いと評価されているところが2つあります。

 まず「写真、イラスト、図表の細部まで確認させ、児童生徒の驚きや興味関心の喚起を図る」というところです。学習過程との関係でいうと、例えば単元の導入で江戸時代や明治時代の街並みの風景の違いを考えるときなど、絵を詳しく拡大して見ることができるので、どんな特徴があるか資料から読み取る活動がスムーズにできます。拡大しても綺麗というのはすごく大きいメリットです。子どもたちが学習を始める時点で、多様な気づきを見つける活動を行いやすいです。

 もう一つは「児童生徒が自分で見たい資料を選択する」というところです。デジタル教科書だと見たい資料だけを全画面に表示できますよね。グラフや表に書き込むこともできます。子どもたちが「自分が伝えたい資料はこれ」というのを意識して選んで、考えをまとめる活動を促しやすいです。

稲垣先生
 まず「必要な情報のみを見せたいとき」というところが高く評価されています。先生から見ても教科書紙面は見開きの中に情報がいっぱい載っています。関心をそろえたいとき、見せるものを限定するときにもデジタルは向いています。
 「学習内容を視覚的に確認する」というのも、見ているものを共通化したいときに使えます。一方バラバラにしたいときにも使えるので二極の使い方があります。

稲垣先生
 そうですね、でも未来永劫かというと、実はそうは思っていません。テクノロジー自体がどんどん変わっていくじゃないですか。今だったら端末の画面は紙よりも小さいし、ページも少しめくりにくい。それがA4見開きくらいにドーンと大きい画面になったり、紙のようにパラパラめくれるようになったりしたら状況は変わると思います。
 今ある手段でベストなことができれば良いので、その結果として今は組み合わせると良いことが多いということだと思います。

自分なりの学び方を試す
―プラットフォームとしてのデジタル教科書の価値―

稲垣先生
 生涯学べる力を育てることが大切です。大人になったら誰かが手取り足取り教えてくれるわけではないので、子どものうちに「自分にとってはここで映像を見るとわかるんだよね」とか、「音声を何回も聞けばいいよね。わからないときは止めてもう1回聞いてみよう」という感じで、学び方を試行錯誤する経験がたくさん積めると良いと思います。こういう工夫をしたらわかるようになった、という経験がどんどん積み重なっていきます。学校を卒業したらもうテストもなく、自分で学ぶことは一生ないということはなく、時代はどんどん変化し、何かわからないことが出てきたり、知りたくなったりすることがある。そんなときに自分なりの学び方を工夫できる、そういう人を育てるための教育課程、教材になってきていると思います。
 昔は大人になってから何か新しいことを学ぼうと思ったとき、とりあえず本屋さんに行ってスタンダードな本を見つけて読んで勉強するってやってきたわけです。本はもちろん今でも使いますが、動画もいくらでもあって学び方は変化しました。その原体験みたいなものを、子どもたちはデジタル教科書を出発点にできちゃうわけです。

 デジタル教科書の良いところは理解をより引き出すいろんなメディアの教材が紐付いているところだと思っています。でもそれだけでおわらず、いろんな学び方の原体験ができるプラットフォームとしての価値が高まることを期待しています。

No.2に続きます。

【コラム執筆】
EduHubWEBコラム担当者