東北学院大学 教授 稲垣忠先生 インタビュー No.2 (2024年6月27日)

 2024年6月27日オンラインにて、東北学院大学文学部教授 稲垣忠 先生にインタビューさせていただきました。

稲垣 忠(いながき ただし)
東北学院大学文学部 教授・学長特別補佐 専門は、情報教育、教育工学。日本教育工学協会常任理事、日本教育工学会・日本教育メディア学会理事等を務める。小~高のさまざまな学校現場にかかわりながら、情報教育、教育の情報化、インストラクショナル・デザインなどを切り口に研究を展開。

 インタビューNo.1では、デジタル教科書の活用のメリットについてお話を伺いました。No.2では変わりつつある授業のスタイルについてお聞きしました。

自由進度学習 複線型授業 ―学びを子どもに委ねていく―

稲垣先生
 このあたりは、授業をどういうものだと見ているかという授業観の問題になります。
 個別最適な学びという言葉が出てきたなかで、実際授業の中でどうやるのかを考えると、一人ひとり違うことをするのが前提になるわけですよね。一人ひとり違うことをするには先生がずっとコントロールすることは当然できないので、ある程度子どもたちに委ねる場面を作る必要があります。ただ放っておくわけでは当然ないので、まず単元を通した課題や本時のゴールを子どもたちと共有します。そのうえで、こんな教材があるよとか、こういった視点で探してみると良いよとか、後でこういうふうに共有するよとかガイダンスをします。それから子どもたちが一人ひとり調べたりグループで教え合ったり、そういった場面が出てきます。

 自由進度学習や授業の複線化といったいろんな方法がありますが、そういう授業に取り組んでみようと思える先生は、授業として教師が何をするかではなく、子ども一人ひとりの学びの姿から授業という場をいかそうとしています。子どもによって持っている事前知識も違えば理解力も違うので、全員同じペースで理解して、みんなきれいにできるようになりました、とは本来ならないですよね。一斉指導では、その差が可視化されないので、なんとかなっていた気がしていたのかもしれません。子ども主体の学びを大事にする学習指導要領に変わって、授業の在り方も、先生がずっとコントロールする授業から、子どもたちが主体的に考えたり動いたりすることを大事にする授業に変わりつつあります。
 自由進度学習をやっている学校の様子を見ていると、教科書を辞書っぽく使っています。まず自分でプリント教材をやるんだけど、わからないときに「あれ、どこだっけ?」と教科書で確認したり、友達に教えるときに「ここに載ってるこれだよね」と一緒に見たり。デジタル教科書に教科や学年を横断・縦断してフリーワードで検索できる機能があればと長年思っています。その機能は現状ないですが、それでもデジタル教材や動画が紐付いていて、自分で学んでいくことを助ける教材として進化しつつあると感じています。

稲垣先生
 文部科学省が公開しているリーフレット「こんなに使える!デジタル教科書・教材・学習支援ソフト」は、授業がどう変わっていくかが非常に端的にまとまっています。

 面白いのは左側が「導入」になっていて、右側が「家庭学習」になっているところです。デジタル教科書になったことで家庭学習との連携もやりやすくなってきました。紙の教科書でも家で書いてきたことを共有することはできますが、教科書を毎回集めるわけにもいかないし、集めている間子どもたちは教科書を見られないので大変です。デジタル教科書だと自分の手元に残しておいて先生にも出せるし、友達とも共有できます。子ども主体の学びになってくると、家庭学習のやり方が変わってきます。決められたものをやってくるというよりも、自分として学びたいことがあって、今日はここまでいったから次までにこんなことしてこようかなという感じです。
 自分のペースで自分の学び方でやっていく活動が増えると、子どもたちに学習を委ねることへの先生の不安も段々解消されていくでしょう。

稲垣先生
 小学校の低学年はまだ基本的な学びの型を身につける段階だと思います。でも中学年くらいからは学び方を少しずつ意識するようになり、高学年からはある程度見通しをもって学べるといったイメージです。
 例えば算数の学習だと、中学年くらいから苦手な子が出てきて、習熟度別にクラスを分けたりしていろんな手立てを打ってきました。ただ、教師が学ぶペースをコントロールする前提では、限界があると思います。自己調整、自由進度をやっていくことで、学習につまずいている子どもたちにとって「自分のペースでやっていいんだよ」と言えるようになります。追い立てられて終わったふりをしなきゃとか、終わってなくても話し合いに参加させられるとかじゃなく。こういった習熟状況に差が生じやすいところから取り入れるのがよいのではないでしょうか。

 デジタル教科書を活用して、一人で学べる子は発展的な教材や、場合によってはウェブ上にある何かで学んでいてもですよね。学習の進みが難しい子は先生に聞きたいっていうのが当然あるわけですが、聞くのをためらっちゃう子もます。動画コンテンツを見て、途中で止めてじっくり考えてもいいわけです。その分、先生に聞きたい子がじっくり教えてもらう時間が確保できたりもします。こういった多様な学び方が増えることで、多様なレベルの子どもの学びを支えやすくなります。

まずは宿題から 「ノート1枚、何をしてきても良いよ」

稲垣先生
 探究や子どもに委ねる授業の入り口になりそうなのは「ノート1枚、何をしてきても良いよ」という宿題です。自主学習や自主勉という言い方もあります。それを通じて「こういうことに興味関心があるんだな」とか「この子たちってこういう学ぶ力を持っているんだな」と知ることができます。それをどんどん見るところからですね。
 そこから「面白いからみんなに紹介してみよう」「授業で取り上げてみよう」、「もっと発展させたり、アドバイスし合ったりする時間を作ってみてもいいかな」といった感じで、学びの多様さを分かち合うところからやっていくと、敷居は下がるのではないでしょうか。

 授業という限られた時間の中では、一斉に指導しないといけないこと、対話を通して考えを広げたり深めたりさせたいこともたくさんあります。個別が唯一の正解ではありません。授業の学びと家庭の学びの行き来がしやすくなったからこそ、まずは子どもに委ねるしかない授業外の取り組みを受け止めてみましょう。面白い取り組みを授業にどういかすか、自分で学ぶのが難しい子どもに学ぶ力をどう育てるか。子どもの学びを見とる視野が広がると、授業を変える必要感も高まっていくのではないでしょうか。

【コラム執筆】
EduHubWEBコラム担当者